「田舎にあるお墓を管理しきれない」「お墓の後継ぎがいないから、今あるお墓はどうなるのだろうか」という悩みや不安を解決できる墓じまい(改葬)。最近、墓じまいをしたいという方が増えています。 墓じまいをするときに役所に提出する改葬許可申請書には、遺骨の移す場所を記入しなければなりません。つまり、墓じまいの最初のステップは、「新しいお墓を契約する」ことです。
遺骨を移す先の選択肢として上がるのは、寺院墓地・民営霊園・納骨堂・永代供養墓・樹木葬です。 今回は、それぞれの特徴をご紹介いたします。
墓石を処理し遺骨を取り出すだけではない、「墓じまい」(改葬)とは
▲撤去された墓石は、処分場で細かく砕かれ、建材としてリサイクルされるものもある。
墓じまいとは、今あるお墓から遺骨を取り出し、墓石や外柵を撤去し、墓地を経営主体に返還することをいいます。
しかし、これは工事業者を手配して、遺骨を取り出し墓地を更地にすれば良いという単純な話ではありません。そもそも、許可なく遺骨を取り出すことは「墓地埋葬法」という法律で禁じられています。墓じまいは墓地埋葬法に決められた手続きを経て進めなければならないのです。
また、墓じまいには墓石の撤去工事が伴うので工事費用や墓石の処理費用がかかるのはもちろん、実は取り出した遺骨を納骨する新たなお墓も用意しなければなりません。つまり、墓じまいは、思い立ったらすぐにできる、というものではなく、ある程度の期間と費用がかかるものであることを念頭に置いて進めなければなりません。
また、墓石の撤去工事を依頼する業者選びも気を付ける必要があります。撤去した墓石は魂抜き(性根抜き)されていますので、撤去後はただの石として砕石され、資源としてリサイクルされます。しかし、過去には不法投棄された墓石が山林で多数発見される事件等もありました。最後まで責任を持って墓石を処分してくれる業者を選ぶ必要があるのです。
墓じまいの業者が、墓石撤去工事費用を見積もるときには、最終処分の費用まで含めます。相見積もりを取った時に、法外に安いところがある場合、その最終処分費用が含まれていないかもしれませんので、検討する際にはよく注意しましょう。
新しい納骨場所の決定から納骨まで…墓じまい(改葬)の流れ
墓じまいの流れは以下のとおりです。
(1)取り出した遺骨の納骨先を決める | 民営霊園・寺院墓地・納骨堂・永代供養墓・樹木葬等の中から、墓じまい(改葬)で取り出した遺骨の移動先を決める。 |
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(2)移転先墓地の管理者から移転先墓地の管理者から「受入証明書」もしくは「永代使用許可書」(原本)を発行してもらう。 | 改葬許可申請時に必要な「受入証明書」または「永代使用許可書」を管理事務所に依頼して発行してもらう。 |
(3)「改葬許可申請書」をもらう。 | 改葬許可申請書は、遺骨のある墓地の市区町村の役所でもらうことができる。 |
(4)「改葬許可申請書」に必要事項を記入し、遺骨のある墓地の管理者から署名・捺印をもらう。 | 民営霊園・公営霊園・共同墓地等の場合は、管理人に墓じまい(改葬)をしたい旨伝え、署名・捺印をもらう。 寺院墓地から引っ越す場合は、菩提寺のご住職に離壇を申し入れて、いままでのお礼の気持ちをお布施としてお渡しすると良いでしょう。 |
(5)改葬許可申請書の提出 | 署名・捺印を終えた「改葬許可申請書」と移転先の「受入証明書」もしくは「永代使用許可書」(原本)を遺骨のある市区町村の役所に提出し、「改葬許可証」を交付してもらう。 |
(6)お墓を撤去し、更地に戻す | 遺骨のある墓地に「改葬許可証」を提示し石材店に遺骨を取り出してもらう。その後、墓石や外柵等を撤去して墓地を更地にする。
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(7)移転先の墓地へ納骨 | 新しい納骨場所に「永代使用許可書」と「改葬許可証」を提出し、取り出した遺骨を納める。 |
墓じまいで取り出した遺骨の納骨場所(1):寺院墓地
寺院墓地とは、寺院が、寺の敷地内(境内)に設けている墓地のことです。基本的に、当該寺院の檀信徒でなければ入ることができません。そのため、希望する墓地が寺院墓地である場合には、これまで利用していたお寺と同じ宗派か確認する必要があります。もし異なる場合は、改宗をしないと使えないことが多いです。
また、寺院墓地を利用する=檀家となり経営主体のお寺を支えていくことになりますので、お寺とのお付き合いを密にし、しっかりとした供養をしてほしいと考える方に向いているといえるでしょう。その分、お寺様への毎年のお布施に加え、施設の改修や
永代供養を希望する場合は、永代供養料が別途かかる場合もあるので、事前にお寺に確認した方が良いでしょう。
墓じまいで取り出した遺骨の納骨場所(2):民営霊園
民営霊園は、宗教法人または霊園運営を目的とした公益法人によって運営される霊園です。民営霊園は、宗教法人が運営しているか、公益法人が運営しているかにより、利用資格に若干の違いがあります。
まず、公益法人の運営する霊園であれば、利用者の宗旨宗派は一切問われず、仏教徒以外の宗教の信者でも、無宗教でも利用可能です。しかし、宗教法人が経営主体である場合、その宗教法人の方針により、具体的な利用条件は異なる場合があります。
また、購入の際には宗旨宗派不問であっても、園内での建墓や法事に制約がある場合も。お墓選びの際には、利用資格はよく確認した方が、後々安心です。
墓じまいで取り出した遺骨の納骨場所(3):納骨堂
納骨堂とは、寺院の中にある遺骨安置施設です。納骨期間が定められているところもあれば、お墓同様に、管理費を払い続ける限り利用可能なところ、納骨期限を区切って納骨し、期間が過ぎると合祀墓に移し永代供養するところもあります。
納骨の形式もロッカーのような納骨壇に骨壺を納めるもの、祭壇の下に遺骨を納めるもの、引出氏の中に遺骨を納めるもの、東京都港区の赤坂一ツ木陵苑のように専用の参拝口に、骨壺が入った厨子が運ばれてきてお参りができるものなど、さまざまな形式があります。
利用資格に関しては、新しい納骨堂には宗旨宗派不問のところが多いのですが、寺院墓地同様経営主体次第なので、よく確認した方が良いでしょう。
墓じまい(改葬)で取り出した遺骨の納骨場所(4):永代供養墓
永代供養墓とは、経営主体が永代に亘り故人様を供養することを約束したお墓です。お墓の後継ぎがいなくても購入することができるので、お墓の後継ぎがいなくて墓じまいをする方、また供養の負担を子供達にさせたくない方など、最近多くの方に選ばれているのが、このタイプのお墓です。
モニュメントが設置された大型の納骨室に骨壺を納めるタイプに加え、最近では複数の骨壺を納められるように納骨室が区切られ、一つの家族で同じ納骨室に納骨できる、マンションのような永代供養墓もあります。
納骨期限も13年・33年・50年など複数あります。中には、納骨したら合祀されず、ずっと同じ納骨室を利用できるものもあります。
墓じまいで取り出した遺骨の納骨場所(5):樹木葬
樹木葬とは、樹木をシンボルとし、その周囲に埋葬するものです。初期の樹木葬は、人里離れた里山の中に埋葬し、目印となる樹木を植えるものでした。亡くなった後は自然に還れると、自然志向の人々の人気を集めました。最近は都市部の民営霊園や寺院の中に樹木をシンボルとして植樹し、その周りに石造りの納骨室を設けている集合墓タイプのものも増えてきています。「実物を見たら、想像していたのとは違った」とならないよう、現地視察はした方が良いでしょう。
なお、永代供養墓同様、後継者がいなくても購入できます。管理費については、施設によってかかるところもあるので、調べた方が良いでしょう。
墓じまいで取り出した遺骨の納骨場所(6):公営霊園
墓じまいで取り出した遺骨を、自分の住む自治体が運営する公営霊園に納めたいと考えている方もいらっしゃることでしょう。
しかし、公営霊園の場合は、自治体、また募集する施設によって、一度埋葬された遺骨を移すことが出来ないところがあるので、墓じまいをする前提で公営霊園申し込む場合は募集要項を確認してください。
例えば都営霊園は、一般埋蔵施設(墓石を建てる区画)では、「一度も埋葬したことがない遺骨」が自宅や一時安置施設にある人でなければ申し込みはできないとしています。この場合は改葬遺骨の納骨はできません。
また、公営霊園は募集期間が決まっており、かつ希望の施設の募集が毎年あるとは限らないうえ、人気のある施設は抽選になることもあります。つまり、申し込んだからと言って確実に利用できる保証がないのです。
そのため、改葬を完了させる時期を決めているのであれば、いつ利用可能になるか分からない公営霊園より、いつでも購入できる民営霊園や納骨堂、寺院墓地、永代供養墓、樹木葬への改葬を検討した方が無難でしょう。
墓じまい(改葬)で取り出した遺骨の納骨場所の選び方
以前の墓から取り出した遺骨を納める場所には上記のとおりいくつもありますが、それぞれメリットとデメリットがあります。その中で、希望にあう場所を選ぶうえで知っておきたいポイントを以下にてご紹介いたします。
- 元のお墓に入っている遺骨の数
- 元のお墓が代々から守られてきた古いお墓で、納められている遺骨の数が多い場合、1体あたりの価格が比較的安価な永代供養墓や樹木葬であったとしても、十数体の遺骨があった場合には、遺骨の数分の永代供養料と納骨手数料がかかるので、想定していたよりも費用が掛かる場合があります。そのような場合には、もしかするとより多くの遺骨を納められる墓石を建てるタイプのお墓を用意した方が良いかもしれません。
- 自分がお墓に入った後にお墓参りをする人がいるか
- 墓じまい(改葬)をする理由として多いのが、遠方にあって十分な管理ができなくなったお墓をお参りしやすい家の近くに移したいから、というものと、祭祀の承継者がいないので、自分の代で終わらせたいから、というものです。後者の場合はお参りのことや法要のことを考える必要はありませんが、前者であれば、後に祭祀を担う子供たちにとってのお参りのしやすさや法要施設の有無は大切です。自分達だけで選ばず、祭祀の後を継ぐ当人も交えながらお墓探しをすると良いでしょう。
- 今後の供養はどうするか(祭祀を継承する人がいるか・いないか)
- 祭祀を継承する人、つまりお墓を守り、法事を主催する人が自分の後にいるかどうか、もまたお墓選びのポイントです。もし承継者がいないのであれば、永代供養が付いたお墓や納骨堂、樹木葬を選択するのが良いでしょうし、承継者がいる場合は、承継者が供養を続けていきやすい立地や環境もまた、選択の条件に入ってくるでしょう。
お墓選びには、万人に当てはまるたった一つの正解はありません。使う人や関わる人、お墓を持つ地域等、条件によっていくつもの選択肢が出てきます。その中でぴったりの場所を選ぶには、情報収集をし、現地見学を必ずすることです。写真は撮影の仕方によって、実物よりも見栄えがするように撮ることが可能です。パンフレットでは特にその傾向があります。また、現地の写真ではなく、CGを掲載していることも、ままあります。現地見学をすることで、資料からは分からない実際の姿が見えてきますので、お墓選びの際は、可能な限り現地に足を運んでみてください。