
近年、亡くなった人を思って心の痛みを感じたり、悲しみが急にこみ上げたりする「悲嘆」が長引く人が増えてきています。こうした心の痛みや苦しみを癒す「グリーフケア」が注目を集めています。
そこで、今回は「グリーフケア」についてご紹介します。
目次
1.「グリーフ」「グリーフケア」とは
「グリーフ(Grief 悲嘆)」とは、家族や愛する人との死別で生じる心の痛みや喪失感を指します。これは誰にでも起こる自然な反応です。しかし、時にはその悲しみが長期間続き、生活に支障をきたすこともあります。グリーフケア(Grief Care)とは、こうした状況にある人の悲しみに寄り添い、日常を取り戻せるように支援のことです。 グリーフのプロセスは人それぞれ異なり、すぐに立ち直れる人もいれば、長期間にわたって苦しむ人もいます。心理学者エリザベス・キューブラー・ロスが提唱した「死の受容の5段階モデル」によると、喪失を経験した人は以下の段階を経ると言われています。- 1. 否認(Denial) –「こんなことが起こるはずがない」と現実を受け入れられない
- 2. 怒り(Anger) –「なぜ自分がこんな目に?」と怒りを感じる
- 3. 取引(Bargaining) –「もし〇〇だったら、助かったかもしれない」と考える
- 4. 抑うつ(Depression) – 深い悲しみに襲われ、無気力になる
- 5. 受容(Acceptance) – 徐々に現実を受け入れ、新たな生活を歩み始める
ただし、これらの段階は必ずしも順番に進むわけではなく、人によって異なります。
グリーフケアでは、こうした過程を理解しながら、遺族の心に寄り添い、支援することが求められます。
2.グリーフケアが必要とされる背景
近年、グリーフケアの重要性がますます高まっています。その背景には、さまざまな社会の変化やライフスタイルの変遷が関係しています。
- 核家族化の進行
かつては大家族が一般的で、家族が協力し合いながら支え、喪失の悲しみを乗り越えていました。また、親族も比較的近隣に住んでいることが多く、頻繁に交流することができました。しかし、現代では家族の人数が減ってきたこと、親と子、親戚の生活拠点が離れ離れになり日常生活の中での交流が減り、故人を偲ぶ機会をなかなか得られず、一人で悲しみを抱え込む方が増えています。 - 高齢化
高齢化が進むことにより、付き合いがあった友人・知人が先立たれたことで親しい人が身近に少なくなり、悲しみを分かち合う機会が失われ、喪失の痛みが長引くことがあります。 - 生活と「死」の分断
かつては、三世代が同居したり、近隣に親戚が住んでいたりと、幅広い世代が生活の中で交流していました。その中で、高齢の人が亡くなるのを身近で体験する機会が今よりも多くありました。しかし医療の発展により平均寿命が延び、多くの人が病院で最期を迎えるようになったことで日常生活の中で死と向き合う機会が減り、死に対し過剰な恐れを抱き、身近な人を失ったときにどう対処すればよいのかわからなくなる人が増えています。 - 葬儀の簡素化
かつての葬儀は、故人を見送るための儀式であるとともに、故人に関わりのある様々な人が通夜や葬儀に訪れ、参列者が語る故人のエピソードや思い出を遺族が聞く中で、故人の死を受け入れていく場としても機能していました。しかし、ここ10年来は家族葬や直葬を選ぶ人が増えてきており、家族や親族などごく限られた人だけで執り行われることにより、故人を良く知る様々な人との交流の機会が失われています。
このような背景から、遺族の喪失の悲しみを癒し、日常生活に戻るための適切な支援を受けられる環境の整備が求められています。
3.グリーフケアを必要としている人
グリーフは誰にでも起こり得るものですが、特に以下のような人はグリーフケアを必要としている可能性が高くなります。
- 配偶者を亡くした人
夫や妻を亡くすことは、人生の中で最も大きな喪失のひとつです。長年連れ添った伴侶を失うことで、精神的な支えを失い、生活のリズムが崩れることもあります。 - 子どもを亡くした親
親にとって子どもを失うことは想像を絶する悲しみです。突然の事故や病気などで子どもを亡くした場合、特に強いグリーフを経験することが多く、長期間にわたって支援が必要になります。 - 自死遺族
家族が自ら命を絶った場合、遺族は「自分のせいではないか」と自責の念を抱えることが少なくありません。こうしたケースでは、通常のグリーフに加えて強い罪悪感が伴うことが多く、専門的なケアが求められます。 - 高齢者
高齢になると、配偶者や友人を次々と失うことが増えます。こうした喪失が積み重なることで、深刻な孤独感に陥ることがあります。 - ペットを亡くした人
ペットを飼っている人にとってその存在は家族同然であり、その喪失も深い悲しみを伴います。特に一人暮らしの方にとっては、ペットが唯一の家族であることも多く、ペットロスの克服は大きな問題となります。
4.グリーフケアの具体的な方法
グリーフケアにはさまざまな方法があります。以下のようなアプローチが効果的です。
- 傾聴
「傾聴」とはただ話を聞くことです。無理に励ましたり、アドバイスをするのではなく、相手の気持ちに寄り添いながら話を聞くことが大切です。
「辛かったですね」と共感し、気持ちを受け止める姿勢を持つことが重要です。 - グリーフサポートグループへの参加
同じような経験をした人たちが集まり、気持ちを共有することで、癒しを得ることができます。
自分だけが悲しんでいるのではないと実感することで、心が軽くなることがあります。 - 専門家のカウンセリング
グリーフが長引き、日常生活に支障をきたしている場合は、専門のカウンセラーに相談することも有効です。 - 生活リズムを整える
食事や睡眠を意識的に整え、軽い運動を取り入れることで、心身のバランスを保つことが大切です。
悲しみを無理に忘れるのではなく、時間をかけて向き合いながら、新たな生活を歩んでいけるようにすることがグリーフケアをする上で大切です。
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心の中にある想いを言葉にしたり、同じ境遇にある人の言葉に耳を傾けることで、次のステップに進むきっかけが得られるかもしれません。
参加無料・予約不要です。
開催日時:2月15日(土)14時~16時
会場:株式会社ニチリョク本社(東京都中央区八重洲1-7-20 八重洲口会館8階)
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参加費:無料
参加方法:予約不要です。直接会場にお越しください。