休日の朝、好きな音楽をかけて、好きな器でお茶を飲む。誰にも気を遣わず、自分のペースで過ごせるのは、ひとりの暮らしならではの心地よさです。
けれど、ふとした夜に「もしものとき、この部屋は誰が片付けるのだろう」と考えて、胸の奥がすっと冷えるような感覚になることはありませんか。
結婚をしていない方、お子さんのいない方、配偶者を見送った方。ひとりで暮らすようになった道のりは、人それぞれです。今回は、そんなおひとりさまのための終活のお片付けについて、一緒に考えてみたいと思います。
「迷惑をかけたくない」は、やさしさと誇りの言葉
おひとりさまの終活でよく耳にするのが、「誰にも迷惑をかけたくない」という言葉です。
この言葉には、いくつもの気持ちが込められているように感じます。まわりの人を思いやる気持ち。自分の力で暮らしを築いてきたという誇り。最後まで自分のことは自分で決めたいという願い。そして、口には出さなくても、ほんの少しの心細さ。
心細さを感じるのは、ひとりの暮らしが寂しいからではありません。今の暮らしを大切に思っているからこそ、その先のことも、自分の手で整えておきたくなるのだと思います。
「迷惑をかけたくない」と思うあまり、誰にも頼らずにがんばりすぎてしまう方もいます。けれど、頼ることと迷惑をかけることは違います。信頼できる人や仕組みに、あらかじめ「お願い」をしておくことは、むしろ相手への思いやりにもなるのです。
お片付けは、まず「今の自分」のために
終活のお片付けというと、「残された人が困らないように」と考えがちです。けれど、おひとりさまのお片付けは、まず今の自分のためのものと考えてみてください。
本当に使う物だけが、手の届く場所にある暮らし。探し物が減り、掃除が楽になり、床に物がなければつまずく心配も少なくなります。部屋がすっきりすると、不思議と気持ちまで軽くなるものです。
そして物が少ないことは、いつか誰かに後のことを託すとき、託す側にも託される側にも、やさしい準備になります。

もしものとき、何を準備しておけばいい?
もしもに備えて整えておきたいことは、大きく2つです。
大事なものの「在りか」を1枚にまとめる
通帳、保険証券、年金の書類、印鑑、契約しているサービス、スマートフォンのこと。大事なものが「どこにあるか」を、1枚のメモにまとめておきます。暗証番号や中身まで書く必要はありません。在りかがわかるだけで、いざというときの手続きはぐっと進めやすくなります。
メモは自宅のわかりやすい場所に置き、信頼できる人に「ここにあるからね」と伝えておくと安心です。エンディングノートを活用するのもよい方法です。

「頼れる先」を、元気なうちに自分で選ぶ
入院のときの手続き、亡くなった後の葬儀や遺品の整理。こうしたことを誰にお願いするか、考えておきましょう。きょうだいや甥・姪、親しい友人に頼む方もいれば、専門家や事業者と契約しておく方もいます。亡くなった後の手続きをあらかじめ託しておく「死後事務委任契約」という方法もあります。
国は2024年に、身元保証や死後の手続きを担う事業者向けの「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」をまとめています。契約を考えるときは、内容や費用をよく確かめ、専門家や自治体の窓口にも相談しながら、納得して選ぶことが大切です。

何から始めればいいの?
一度に全部やろうとしなくて大丈夫です。いつも過ごす場所の、小さなところから始めましょう。
- 毎日使う引き出しをひとつ選び、「今の自分に必要な物」だけを残す
- 迷った物は箱に入れて、しばらく置いておく
- 片付けの途中で見つけた大事な書類は、ひとつの場所に集める
物を選ぶときは、「いつか使うかも」ではなく「今の私が使っているか」を基準にすると、迷いが少なくなります。
思い出の品は、急いで手放さなくてかまいません。誰かに受け継いでほしい物には、「これは〇〇さんへ」と一言メモを添えておくと、物と一緒に想いも届けられます。
今日からできる小さな一歩
- 引き出しをひとつ開けて、「今の自分に必要な物」を選んでみる
- 大事なものの「在りか」を、1枚のメモに書き出してみる
在りかメモは、年に一度、誕生日やお正月などに見直すと決めておくと続けやすくなります。
ひとりで決められることは、ひとりの強さ
何を残し、誰に何を託すのか。それを自分で選べることは、おひとりさまならではの自由であり、強さでもあります。
とはいえ、ひとりで考えていると、堂々めぐりになってしまうこともあるでしょう。そんなときは、誰かに話してみるだけでも、気持ちが整理されることがあります。ひとりで決めることと、ひとりで抱え込むことは、違うのですから。
まずは今日、引き出しひとつ分の心地よさから始めてみませんか。
12月の〈本番編〉では、大掃除と一緒に進められる、本格的な終活のお片付けをご紹介します。
ニチリョクからのご案内
おひとりさまの終活について、「何から考えればいいのか」「誰に相談すればいいのか」など、気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
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執筆者プロフィール

吉原友美(よしはら・ともみ)
終活講師・グリーフケア士。
株式会社ニチリョク 執行役員・終活部長、
一般社団法人ライフ・パートナーズ代表理事。
早くに家族を亡くした自身の経験から、グリーフケアに早くから着目。
大切な人を失った悲しみに寄り添うことの大切さを伝えている。
2011年から、シニア世代を中心に、終活を身近な言葉でわかりやすく伝えてきた。
講演は1,000回以上、参加者は延べ25,000人以上。「相続会議」「婦人公論.jp」をはじめ、その他の媒体でも執筆。